📘 エンコーダーウィキ
エンコーダーの主要パラメータ解説
エンコーダーを正しく評価し、選定するには、測定精度、速度範囲、環境適応性、寿命など多くの側面に影響を与える重要なパラメータを深く理解する必要があります。本ページでは、各種エンコーダーの一般的な電気的、機械的、環境的パラメータについて、より専門的かつ詳細に解説します。
1. 分解能(Resolution)
1.1 定義と表記方法
- 増分(インクリメンタル)エンコーダ:PPR(Pulses Per Revolution)またはCPR(Counts Per Revolution)で表記。典型的に1000、2500、5000 PPRなど。4倍周波数時は実カウントが4×PPRに。
- 絶対エンコーダ:単回転分解能をビット数(例:13ビット=8192ポジション)で表記。多回転分解能は「多回転ビット数+単回転ビット数」(例:25ビット多回転)。
- リニア(線形)エンコーダ:LPI(Lines Per Inch)、CPI(Counts Per Inch)、または「µm/パルス」で表現。
1.2 分解能とシステム性能
- 高分解能ほど微細な動きを検出し、高精度な位置決め・速度制御が可能。
- 過度な分解能は高速コントローラや高性能プロセッサが必要となり、パルス取りこぼしや遅延の原因に。
- 高速運転時、高分解能は高パルス周波数を生むため、ケーブル・ドライバの帯域が追従可能か確認。
1.3 補足
- 内部補間(Interpolation)による電子分解能拡張機能を備える製品あり。
- 機械分解能(コードホイール刻線数)と電子分解能(補間後出力)を区別。
2. 精度(Accuracy)
2.1 広義と狭義
- 広義精度:出力値と真の位置との差の最大偏差。コードホイール誤差、機械組立誤差、軸受ガタ等が影響。
- 狭義精度:刻線精度やセンサ読み取り精度のみで、組立・軸受誤差を含まない場合あり。
2.2 単位
- 回転エンコーダ:arcsec(角秒)、arcmin(角分)、度(°)、または分解能百分比。
- リニアエンコーダ:µm/m、ppm(百万分率)など。
2.3 誤差要因
- コードホイール/グレーティング製造誤差:刻線ピッチ不均一、偏芯。
- センサ非線形:光電・磁気センサの読取りエッジ歪み。
- 機械取付誤差:偏芯、軸受ガタ、フランジ不整合。
- 環境影響:温度ドリフト、振動、汚染付着。
2.4 改善と補償
- 高精度グレードのコードホイールや精密光学・磁気素子採用。
- レーザー干渉計による誤差校正、補償テーブル作成。
- 軸受剛性向上でガタ低減。
3. 繰返し精度(Repeatability)
3.1 概念
- 同一位置への複数回移動時の出力の一貫性。絶対ズレには依存せず、再現性を評価。
- 絶対精度が普通でも繰返し精度が良ければソフトウェア補正で高精度化可能。
3.2 要因
- 機械的バックラッシュ:ギア、カップリング、ボールねじの遊び・弾性変形。
- 信号ジッタ:センサのしきい値揺らぎ。
- 環境干渉:温度変動、EMI、振動。
3.3 改善策
- 伝動系最適化、高品質カップリングで同芯度確保。
- 多重サンプリング平均化、フィルタ処理。
- 振動・ノイズ源の抑制。
4. 最高速度と応答周波数(Max Speed & Frequency Response)
4.1 最高速度
- 回転エンコーダ:RPM(revolutions per minute)。例:6000 RPM。
- リニアエンコーダ:m/sまたはmm/s。
- 最高速度超過で信号欠落・歪み発生、精度低下。
4.2 応答周波数
- 運動速度上昇時もパルス波形を保ち正しくカウント可能な限界周波数。
- 増分エンコーダのパルス周波数=RPM × PPR / 60。
- 絶対エンコーダは通信レートまたは更新レートに依存。
4.3 注意
- コントローラは高速パルスカウント/シリアル解析能力を有すべき。
- ケーブル・受信回路は帯域確保とノイズ対策が必須。
5. 供給電圧と消費電力(Supply Voltage & Power Consumption)
5.1 電圧範囲
- TTLタイプ:5V DC。HTLタイプ:10~30V DC。高級機は4.5~30V。
- 産業用Ethernet対応エンコーダは24Vシステムに適合。
5.2 消費電力
- 光学式は照明光源内蔵で高め。
- 磁気/静電容量式は低消費、低温時に予熱要の場合あり。
- 高速・高分解能動作で内部処理・ドライバの消費増。
5.3 安定性
- 電源リップル・瞬低はリセットやパルス欠落を招く。
- 多軸大規模システムは電源ケーブル抵抗降下に注意。
6. 出力形式と信号レベル(Output Types & Signal Levels)
6.1 増分出力
- A/B/Z方形波:TTL、HTL、RS422など。
- 正弦波出力(1 Vpp):高精度グレーティング/磁気エンコーダで補間分解能拡大。
6.2 絶対出力
- 並列式:Grayコード、バイナリなど複数ビットパラレル。
- シリアル式:SSI、BiSS、EnDatなど同期シリアル、配線削減・耐ノイズ性向上。
- バス/Ethernet:CANopen、Profibus、EtherCAT、Profinetで多軸ネットワーク化。
6.3 アナログ出力
- 電圧(0~5V、0~10V)、電流(4~20mA)。従来のアナログ制御に適合。
- 電源リップル・ケーブルインピーダンスで精度影響。
7. 保護等級(IP Rating)
7.1 IP規格
- IP65:防塵・低圧水噴射保護。
- IP67:一時的な浸水可。
- IP68:長時間水中動作可。
7.2 選定
- 屋外、食品洗浄、高湿粉塵環境は高IP推奨。
- 高IPはコスト・放熱・軸受抵抗増を総合評価。
8. 軸受荷重と機械寿命(Bearing Load & Mechanical Life)
8.1 軸受種類と荷重
- 精密ボールベアリング、アンギュラコンタクトベアリング採用。
- ラジアル荷重:軸心垂直。アキシャル荷重:軸心方向。
8.2 寿命と保守
- 高速・大荷重・温度極端で寿命短縮。
- セラミック軸受や特殊潤滑脂で耐久性向上モデルあり。
8.3 取付注意
- 柔軟カップリングや外部支持でラジアル荷重分散。
- 同芯度確保で余分なトルク・振動回避。
9. 環境パラメータ(Environment Parameters)
9.1 温度範囲
- 動作温度:例 –20 °C~+85 °C。精度保証域。
- 保存温度:より広範囲だが、光学部品・潤滑剤の劣化注意。
9.2 湿度・結露・腐食
- 高湿結露下はシール・防錆処理強化。
- 酸・アルカリ・塩水環境はステンレス筐体または耐腐食コーティング。
9.3 耐振動・耐衝撃
- gまたはm/s²で振動衝撃限界表記。工作機械主軸や自動車試験台は高規格必要。
- 防振ゴム、マウントで衝撃低減可。
9.4 EMC/ESD対策
- シールドケーブル・適切アースでEMI抑制。
- 接地リング、TVSなどESD保護を併用。
10. 機能安全と冗長化(Functional Safety & Redundancy)
10.1 安全整合性レベル(SIL / PL)
- SIL:IEC 61508/62061準拠。PL:ISO 13849準拠。
- AGV、エレベーター、協働ロボット等安全クリティカル領域はSIL2/3認証モデル推奨。
10.2 冗長設計
- 二重リードヘッド/二重チャンネル:異なるセンサデータをクロスチェック、故障時自動切替。
- センサ故障によるダウンタイムリスク大幅低減。
10.3 内蔵セルフチェック
- 光源劣化、磁場異常、高温検知でアラート出力。
- “安全停止”や“減速保護”ロジックでシステム安全性向上。
11. 直線性誤差と校正(Linearity & Calibration)
11.1 誤差要因
- コードホイール/磁気パターン周期分布不均一。
- リードヘッド/スケール間ギャップや取付角度微調整で変動。
11.2 校正と補償
- 半導体検査、精密測定用途はレーザー干渉計で誤差カーブ取得、補償テーブル作成。
- 一部エンコーダは内部メモリに補償テーブル格納し、自動補正。
11.3 部分校正とシステム統合
- 小レンジ動作区間のみ校正→高精度維持。
- 繰返し精度活用で極めて高い位置決め精度達成可能。
12. 総合選定と統合の留意点
12.1 アプリケーション要件
- 運動タイプ:回転/直線、速度帯域、加減速特性。
- システム精度:分解能、精度、繰返し精度の要件。
- 環境制約:IP等級、温度域、粉塵・水蒸気、振動ノイズ。
12.2 機械・電気接続
- 軸径・フランジ形状・軸受荷重が機械伝動系に適合するか確認。
- 供給電圧、信号レベル、通信プロトコルをコントローラと整合。
- ケーブル長、電圧降下、信号減衰を見積もり、シールド/ツイストペア適用。
12.3 設置調整と保守
- 同心度確保、過大ラジアル/アキシャル荷重回避。
- 柔性カップリング推奨、微小偏心補償。
- 定期的にシール、防塵リング、ケーブル・コネクタの締結状態を点検。
13. まとめ
エンコーダー選定の鍵となるパラメータを理解することで、制御システムの効率と安全性を高められます。主な指標は以下の通りです:
- 分解能・精度・繰返し精度:位置決め精度と制御の滑らかさを左右
- 最高速度・応答周波数:高速動作時の欠落パルス防止
- 保護等級・軸受荷重:過酷環境・大荷重下での安定寿命
- 電気的互換性・通信インターフェース:ドライバー、PLC、産業ネットワークとの高効率接続
- 機能安全・冗長化:安全クリティカル用途の信頼性確保
これらのパラメータの意味と試験基準を把握し、最適なエンコーダー選定、統合、保守を行うことで、産業オートメーションシステムに高い効率と安全性をもたらします。
← エンコーダ用語
エンコーダー技術仕様詳解 →