インクリメンタルエンコーダ
インクリメンタルエンコーダは、モーションコントロールシステムで最も一般的に使用されるセンサの一つであり、産業オートメーション、CNC工作機械、ロボット、自動検査システムなど幅広い分野で活用されています。本記事では、インクリメンタルエンコーダの定義、動作原理、信号出力特性、性能指標、構造分類、業界標準、技術比較、よくある保守トラブルとその対策、選定ガイドについて詳しく解説します。
インクリメンタルエンコーダとは(What is an Incremental Encoder)
インクリメンタルエンコーダは、周期的なパルス信号として機械的な変位情報を出力するセンサです。一定の角度または距離ごとに対応するパルスを生成し、外部カウンタやコントローラでこれをカウントすることで、相対的な位置検出を行います。
出力信号は通常、以下の3相で構成されます:
- A相
- B相(90°位相差を持つクワドラチャ出力、回転方向検出用)
- Z相(1回転ごとに1回出力されるゼロリファレンスパルス)
インクリメンタルエンコーダは相対位置しか提供しないため、電源断時に位置情報が失われます。そこで、機械的または電気的なゼロ点補正機構が併用されることが一般的です。
動作原理(Working Principle of Incremental Encoders)
光学インクリメンタルエンコーダ
LED光源で回転するグレーティングディスクを照射し、透過部/不透過部の周期的なパターンをフォトディテクタで検出。電子回路で整形され、標準的な矩形波パルスとして出力されます。
磁気インクリメンタルエンコーダ
ホール素子や磁気抵抗センサを用いて、回転軸に取り付けられた磁気グリッドの極性変化を検出。周期的なパルス信号を生成します。
方向検出とゼロポイント検出
A相とB相には90°の電気的位相差があり、回転方向を判別可能。Z相は1回転ごとに1パルスを出力し、ゼロポイントの基準として使用されます。
信号出力特性(Signal Characteristics)
項目 | 説明 |
---|---|
出力信号形式 | 矩形波(TTL/HTL/RS422)、または正弦/余弦アナログ出力 |
電圧レベル | TTL(5 V)、HTL(10–30 V)、RS422差動信号 |
信号周波数範囲 | 数百kHz~数MHz |
分解能(PPR) | 通常100~10 000 PPR、インターポレーションでさらに高分解能化可能 |
位相差 | A相/B相間 90° ±10° |
伝送距離 | RS422差動信号で100 m以上伝送可能 |
インクリメンタルエンコーダ vs 絶対エンコーダ(Incremental vs Absolute Encoder)
性能指標 | インクリメンタルエンコーダ | 絶対エンコーダ |
---|---|---|
位置情報 | 相対位置(外部カウンタ要) | 絶対位置(内部メモリで保存) |
コスト | 低 | 高 |
システム複雑度 | ゼロ点管理・外部カウンタが必要 | シンプル(外部カウンタ不要) |
電源断後の復帰 | 自動復帰しない | 自動的に位置復元 |
適用例 | 一般的な速度/位置制御 | 高精度・高信頼性位置決めシステム |
主要性能パラメータ(Key Specifications)
- 分解能(PPR):1回転あたりのパルス数。測定精度を決定。
- 最大回転速度(RPM):公称動作範囲での最大許容回転速度。
- 保護等級(IP):IP50~IP68など、使用環境を規定。
- 動作温度範囲:標準 –20 °C~+85 °C、拡張 –40 °C~+100 °C。
- 耐振動・耐衝撃性能:振動 10~20 g、衝撃 50~200 g。
代表的な適用分野(Typical Applications)
- 産業オートメーション:モーター速度フィードバック、製造ライン位置検出
- CNC工作機械:工作物スライド位置、主軸回転制御
- 包装・印刷機械:材料長さ制御、レジストレーションシステム
- 医療機器:CT回転プラットフォーム、検査機器位置制御
- スマート物流システム:AGVナビゲーション、コンベア制御
- エレベーター・クレーン:キャビン位置、昇降制御
業界標準・規格(Industry Standards and Norms)
- ISO 13849-1:機械制御システムの機能安全
- IEC 61000-6-2:産業環境におけるEMC規格
- IEC 60068-2:環境適合性試験(振動・衝撃)
- IEC 60529:筐体保護等級(IPコード)
保守・トラブルシューティング(Maintenance and Troubleshooting)
日常保守
- 軸、カップリング、フランジなど機械的取付部の締結状態を定期点検
- 光学タイプは特に埃や油汚れが付着しないよう清掃
- ケーブル・コネクタの損傷・緩みを定期確認
よくある故障と対策
- 信号出力なし:電源、配線確認。センサ素子の損傷確認
- 信号欠落・ジッタ:取付剛性の確認、EMI対策用シールドケーブル使用
- 異常振幅変動:ベアリング・カップリング点検・交換、負荷確認
選定ガイド(Selection Guide)
- 用途要件の明確化:回転/直線、精度、速度範囲を決定
- 分解能と周波数のマッチング:PPRをPLC/コントローラ入力周波数に合わせる
- インターフェース・信号レベル:TTL/HTL/RS422への対応を確認
- 環境適応性:温度、埃、水分に応じ保護等級・材料選定
- 機械取付仕様:シャフト径、取付方式、許容荷重を確認
以上の内容を踏まえ、インクリメンタルエンコーダの動作原理、信号特性、適用要件、業界標準、保守方法を深く理解することで、システム統合や機種選定の精度を高め、装置の信頼性・性能を大幅に向上させることができます。
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